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3キャリア対応ゲームアプリシリーズ、「夢魔の天蓋」「夢幻狂詩ネクロノミコン」「夢幻舞葬モンストラバルツ」について考察やら妄想やら色々。
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 頬に暖かな感触がして、俺は自分が涙を流して居るのだと言う事に気が付いた。とっくの昔に枯れ果てて、溢れ出る事はもう無いのだと思って居たその心。それは自分で凍らせた感情が解けて溢れた滴なのかもしれないと、ふと、思う。
 ふわりと、頬に掌の感触。手が伸ばされて居る。涙を拭こうとしてくれて居るのだろうか。

 ……速水。
 結局救う事が出来なかったな。
 それはただの気紛れだったのかもしれないが、お前はアリスが救おうとした男。その気配を感じたから最初は利用しようと考えた。それだけだった。
 だが。
 あの時。

「……煙草、やめたのか?」

 誰も知らぬ過去の自分を指摘されたあの時、憎しみに全てを委ねようとするのを止められた気がした。冷たく暗く激しい感情に焼かれる中柔らかく暖かな声に呼び止められた気がしたのだ。
 気が付けば目の前には真っ直ぐ俺を見つめて来る男が一人。その眼に見詰められて居ると、頭の芯から冷えていく様だった。気が付けば、驚く程に冷静さを取り戻して居た。
 利用するだけの存在は何時しか俺を名前で呼び、対等の目線に立ち、話して居た。宝鍵を宿し憎しみを心に身体に宿したその日から、誰もが何処か畏怖を秘めて俺を見、接した。或いは教授がそうであったように、私怨を諫め、改めようとした。
 なのに、あの男は。

「すまない……」

 涙を掬われる感触がする。
 速水。
 無力だ。復讐という念願を果たし終えたというのに。救いたいと思うものは何一つ救えない。

「貴方達には未来の夢を」

 ……未来?未来なぞ始めから望んでなど居ない。

 力の源を失った宝鍵と共に朽果てるのも構わないと思って居た。それ以上も以下もそれ以外も無く、ただ奴を滅ぼす事だけに宝鍵をこの身に宿し、ただそれだけが生きる事への望みだったからだ。
 そして今も同じ。
 朽果てても構わない、身体に穴の開いたような気分だった。何もかもが抜け落ちて、まるで抜け殻だ。煙草の味すら忘れて居る。紫煙をいくら吸い込んでもそれは穴を満たさない。
 所詮は煙なのだ。

「ジン。煙草、俺にも寄越せ。約束だろ。全く、ひとの事こき使いやがって何だと思ってんだ。……なんだよ、全部終わったのに浮かない顔だな。らしくねぇ」

 今し方凍結を施したばかりのロアを振り仰ぐ。それは吠えるばかりの獣ではなく、常軌を逸した帰依者でもなく、共に戦った男の姿。ただ佇むだけだが今にも何処か芯の通った声が聞こえてきそうだった。
 呼び掛けても何も応えはしない。分かって居る。
 第三界…「白痴の揺り篭」に辿り着いたが故の力と知識で禁忌を悟り自ら凍結を望んだ、…賢明な男。

 だが、共に生きて行くヴィジョンを一瞬でも見てしまった。
 奴が消えたその瞬間に、俺は全てを失ったというのに。ただ朽果てるだけの存在になったというのに。

 願わくば。共に。

 滅びようとも。

 夢を。
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 自分の全活動を凍結するための術式だというのにそれはほの暖かく、胸の奥の方から指先へ、足先へ、目の奥へと満たされて行く様だった。
「不思議だな」
「……何が」
 ぼそり呟く声に、ぶっきらぼうな男の声が返る。
「苦しくない」
 もっと苦痛を伴うものだと思って居た。
「術式への抵抗がないからな」
「そうか」
 一度異界から生還した俺が、帰依者の襲撃に遭ったあの日、運命の日。目の前に現れた魔術師の放つ術式は得も言われぬ苦痛を伴った。正気を保てていたのが不思議なくらいの苦痛に言葉も出ず、目眩と吐き気で世界がぐにゃりと歪んで見えた。
 戦う為「ロア」として魔素を開放する時でさえ、四肢がバラバラに引き裂かれる痛みと、耳元で煩く喚き散らす虫の羽音のようなノイズに苛まれた。声は声にならず喉からは獣の咆哮が漏れ、酷いノイズと歪む視界の中で、術者だからだろうか、ジンの姿と声だけはハッキリとして居た。
 が、「白痴の揺り篭」に足を踏み入れ自らに制御式を取り込む事が出来た今、視覚も聴覚も、全てがクリアになった今、肝心の、ジンの姿が、よく見えない。

 ……いや。
 これは、単に……涙で視界がぼやけて居るだけだ。
 ロアの姿でも、涙を流す事が出来るのだろうか?
 そんな疑問に駆られながらもふと目を凝らすと、鉄面皮でいつも不機嫌そうにして居た目の前の男は、憂いとも悲しみとも付かぬ複雑な表情をしていた。

 そんな顔見るの初めてだな。まぁ知り合って指折る程しか経ってないけど。あんたと居たのは禄でもない体験で、しかもこんな禄でもない結末だったけど、でも、あんたにそんな表情をして貰えただけで得した気分だよ。

 つ…と、一筋、たった一筋、ジンの頬に伝う光る筋。それを確認すると、もう堪らなくなって手を伸ばす。伸ばした手はロアの異形ではなく人間の、速水隆介の手で、少し驚く。

 ああ、身体。もう動かないのか。活動が凍結されようとしてるんだもんな。じゃあこの腕は、今の速水隆介の腕は、思考は、何なのだろう。魂とか意識とか…幽体とでも言うものだろうか。
 でももし、この腕でもジンの涙を拭う事が出来るのならそれだけで十分で、身体などどうでもいい事だと思う。
 泣いた処を見た事はないし、泣くなんて想像も出来ない。傲慢で気丈でいつも眉間に皺を寄せ、尽きる事のない炎を奥底に感じる、そんなジンが泣く様など。
 でもその炎は深い憎しみと復讐に彩られて居たんだよな。その憎しみの対象であるジャッジマンも、彼の犠牲になりながらも彼を愛したアリスも消えてしまった。
 そして今。ジン、あんたは何を思う?
 伸ばした手がジンの頬に触れる。暖かい。透けたような手でもちゃんと感触がある。そっと涙を拭うと、目を細めて、辛そうに、一言。

「すまない……」

 謝らないでくれ、そんな表情をして。仕方が無かったんだ、こうなる事は。アリスに出会ってしまった時から、アリスの手を取ってしまった時から、こうなる事は決まって居たんだ。この運命を定めたのは俺自身。ジンの力が及ばない訳じゃない。
 折角良いパートナーになれたと思ったのにな。もしかしたら俺が此処へ来て初めてかも知れないんだ。
 心から信頼出来た人。
 衝突しながらも心通わせ、信頼と不安とを共有し、その身を案じ合う事の出来た存在は。
 だから。
 色々あったけどさ、俺はこれで満足なんだよ。生きて欲しいと願ってくれたのは凄く嬉しかった。けど、俺が生に、人間の夢を視る事に拘って新たな危険を触発してしまうよりは、あんたの手で凍結される方が余程いい。誰でもない、あんたの子守歌で俺は眠り、揺り篭の住人を起こさないよう身を潜める事が出来るのだから。

「今までは恨みの為に振るったその魔術を、今はただ、俺だけの為に。なぁ、ジン」

 あんたのお陰で、人として居られるんだぜ。
「名前を付けねばならんな」
 それに。その左腕に。
 魔術の媒介にするなら尚更。名前を内なる第三界に記し、呪文に組み込む事で、容易に魔術の施行に使用する事が出来る。私は道具の全てに名前を付けているし、恐らくあ奴もそうだったであろう。
 ジンは、その捻れた左腕を見つめながら、ぽつり言った。
「名前なら、付けました」
「何と?」
「……宝鍵、と」
「そうか」
 それはジンにとっての銀の鍵となるのだろうか。ランドルフ・カーターはそれを得て夢見る力を取り戻し、夢の世界へ旅立つ事が出来たが、ジンはどうか。
 私には、それを得る事でジンは夢見る力を失ったように思えた。
 ああしかし、どうする事も出来ないだろうという確信はある。馬鹿な悪友に対しても、その息子に対しても。既に現役を退き、好きな本に囲まれた余生を過ごそうとしている者にとって、その渦中に飛び込むのはあまりに酷といえよう。
 出来る事は、その息子に、ジン・レイカーに、私の魔術の知識と技術を継承する事ぐらいだ。
 本来ならば、師である筈の父親の役目。だがその父親はあんな事になってしまった。だが放って置けば、ジンはがむしゃらに飛び込んで行くだろう。命知らずな行為と解っていながら。
 それにその左腕…宝鍵も、完全に安定し、ジンのものになっている訳では無い。
 だから、せめて力を付けるまで。
 宝鍵がジンの手に、完全に握られるまで。

「……私の弟子になりなさい、ジン」


end
 ジンはあれから、…異界から助け出したあの日から、二日間眠り続けた。左腕は完全に呪染されていたが、それ以上呪染が進行する事は無く、そのままで安定していた。
 あの日、異界で、感じては居た。進行はしないだろうと。魔素を内包したまま、その腕はジンのものになるだろうと。
 考えられない事だった。いくら魔術に長けた者でも、身体の呪染が始まってしまえば、それを止める術は無い。
 だが、驚き、戸惑うと同時に胸を撫で下ろす自分が居た。
 ……友の息子を手に掛ける事は、出来ればしたくなかったから。

 一体何が起こったのか。詳しく知りたいと思ったが、ジンに聞くわけにもいくまい。確認せずとも、あの事件を引き起こしたのはあ奴の他に考えられぬ。ならば、ジンに聞くのは少し酷なのではないか。
 どうせ、推測が確証に変わるに過ぎないのだ。
 ならば、推測のみでおおよそを知るに留めて構わんだろう。


「奴は何処だ」

 目覚めたジンは先ず最初にそう言った。胸倉に掴み掛からんばかりに、眼光鋭く私を睨み付ける。
 彼の事は、それこそ乳飲み子の頃から知っているが、それまで一度としてそのような表情を見たことがなかった。だから、それだけで分かってしまった。
 犠牲があったのだと。
 予想はしていたが、やはりそうなのだと。
 ユリさんとアリスは、飲み込まれてしまったのだと。

「解らんよ。私が駆け付けた時は、お前しか居なかった」
「…………」
 ジンは黙って俯き、そして左腕を見た。異形のそれを。それに対しての驚きも悲しみも何も無く、ただ、苛立ちをひたすらに抑えているようだ。
「……休んでいなさい」
 私の強い口調に、ジンは左腕を差し出し、その内包する魔素が持つ、この界の支配権を私に譲った。
 掌握した瞬間、私の心配は杞憂に、もう一つ抱いていた予感は核心に、それぞれ変化を遂げる事になる。

 Thiby Magunumu I...Inomiy Signa Stheram.

 この異界を造り出したのは……あ奴であったか。
 やはり……そうなのだな。まさかとは思ったが、ここまでするとは。
 惹かれてしまったのか。止められたかも知れぬのに、何故気が付かなかった、ノーマン。何故。

 Inomiy Ameg Stheream. Lheno Nikon Shwept.

 ジン。何と言う大胆な事を。自身の侵された腕を魔術の触媒とするとは。その魔素で、この界を掌握したというのか。下手をすればお前自身が破滅していたかも知れんのだぞ。

 《ES-Yoth-Triagon》

 馬鹿な事を……父子揃って……!


「容態はどうなの?」
 何処で聞き付けたのか、私の図書館に訪れた少女は、開口一番そう言った。
「私はこの通り、五体満足だが?」
 それを聞いて、酷く呆れたような視線を私に向けた。軽蔑の眼差し。この娘からそんな眼差しを浴びせられるのは、最早慣れてしまったが。
「ふざけないで、ノーマン。分かってるんでしょ?聞いた話では、あの子……」
「……今は休んでおるよ。強制的に寝かせておる。消耗が激しかったのでな」
「そう……」
 安心、では無く、残念、といった表情だ。彼女の目的はわかる。見に来たのだろう。
「もし彼に用事があるのなら、出直して頂けると幸いだな」
 正確には、彼の左腕に、だろうが。
「そうね……でも」
 彼女は口の端を持ち上げて、歳不相応の微笑みを零す。少女と言うよりそれは、妖艶な美女がするものだ、普通は。
「お茶もまだご馳走になってないもの。ゆっくりしていくわ」
「マフィンは用意出来ないが、宜しいかね?」
「ええ。そのかわり、美味しいお茶を頂戴ね」
 オールドロンドンティーが飲みたいわ。……と、そう言って彼女は微笑む。全く、アシュビィズは切らした事が無いと言わなければ良かったか。思わず溜息が付いて出た。
 
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