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3キャリア対応ゲームアプリシリーズ、「夢魔の天蓋」「夢幻狂詩ネクロノミコン」「夢幻舞葬モンストラバルツ」について考察やら妄想やら色々。
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 コンビニに着くと、中には入らずに自動販売機で煙草を買う。ジンの買った銘柄が、日本に居た頃自分が吸っていたものと同じもので、思わず苦笑が零れた。
「……何だ」
「何でもない」
 睨まれ、俺はまた苦笑した。多分、何でも良かったんだろう、そんな買い方だ。自動販売機の、一番目に止まりやすい場所にボタンがある。
 右手と、口を使ってフィルムを剥がし、一本口にくわえる。その動作を見ながら、そこで初めて気が付いた。
 左腕が、ない。
 前は確か、変形してしまったあの腕を、服の内側、カバーの中にしまい込んでいた。でも今はそれすらない。左の肩から下には何もない。
 少し懐かしいような、煙草の香りが漂って来た頃、ジンは再び歩き出していた。

 向かった先には公園があった。大して広くもない所だが、それでも都会の中で緑に触れ合える貴重な場所。
「懐かしいな。よく来てたよ、ここ」
 あまり変わってない。
「……来る時に見かけたんでな。話すには調度いいだろ」
 そう俺に言って、ジンはベンチに座り、設置されている灰皿に灰を落とす。俺はその隣に腰掛けた。周りに人はいない。今は何時か分からないが、そういう微妙な時間なんだろう。
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「夢か」
 その言葉を反芻する、静かな声。
「俺が見てるのか、ジンが見てるのか解らないけどな」
「俺はこんな夢は見ない」
「じゃあ、俺が見てるのかな」
 夢だ。そうに決まってる。多分ここは日本だ。似合わないスーツに身を包んだジンは、母さんに、きっと俺の事を話しに来ている。ジンがそんな事をするなんて、夢以外有り得ない。
 ジンはスーツのポケットを探り煙草のケースを取り出したが、中身がもうない事に気が付き、グシャリと握り潰した。それから、溜息。

「信号を左に曲がったらコンビニあるぜ」
「……そうか」

 段々分かって来た。さっきの場所は母さんの勤めてる病院。職員用の裏口から抜けて、すぐ近くにコンビニがある。また少し先に、地下鉄の入口。迎えに行ったりした事もあったから、この辺の地理はよく知ってる。
 ジンはコンビニを確認すると、軽く溜息を付いて、それからネクタイを緩めた。ネクタイまでしっかり締めて、益々似合わないなと思う。やっぱり、母さんに俺の話をするために、こんな似合わない恰好をしてるんだろうか。
 遠く、薄ぼんやりと見える二つの人影に目を凝らす。スーツを着た男性と、中年の女性。どちらにも見覚えがある。
 深々と頭を下げた男性の、左の袖が風にたなびく。それを見た女性が少しだけ淋しそうな表情をして、それからゆっくりとうなだれる。

 どんな事を伝え、どんな風に思ったのか。知りたいと思った。
 だってきっと母さんは信じない、こんな話。馬鹿げてるって笑うに決まってる。それで、いつ帰ってくるの、ちゃんと暮らせているの、仕送りなんかしなくていいって言ってるのにって、俺に電話をするんだ。

 だけど何だか……母さんは泣いているみたいだ。


 やがて二人はどちらともなく顔を上げ、お互い違う方向へと歩き出す。
 俺は母さんを追い掛けようとしたけど、あのヒラヒラとたなびくスーツの袖に引っ張られたみたいだった。フワフワとした身体が吸い寄せられるみたいに、母さんを名残惜しく眺めながら、その袖に付いて行った。


「……何で貴様がここにいる」
 ぼそりと呟かれた言葉は、自分に向けられているのだと解る。
「わからない。気が付いたら立ってた」
 それは本当だ。景色もぼんやりとしか見えないし、その中にそのスーツの色だけが際だっている。

「そうか。揺篭の住人の気まぐれか何かか」
 そうかもしれないけど、多分違う。多分。
「……多分、夢さ」
 夢は。俺にとっての夢は、決して楽しいものじゃない。だが、妙に笑えた。自嘲の笑いだ。
 どんな夢を見ていたか、忘れてしまえば良かったろうか。忘れる事なぞ出来はしないのだが。まだ悪夢は続いているのだから。
 では、この悪夢から目覚める時、奴への復讐を果たしすべてを終わらせたその時はどうだろうか。
 ……結局、永遠にこの悪夢に囚われ苛まれ、目が覚めた後は自嘲を繰り返していくのではないだろうか。囚われ続ける自分自身を滑稽だと笑いながら。

 こんなことを考えるなんて、らしくないな。
 ふと思いまた自嘲する。もう迷いも疑問もないはずだ。それ以外に自分にはなにもないのだから。
何を一体そんなに真剣に調べているのか、ふと気になった。そこに落ちているのは断片に過ぎないという事はわかっていたが、それでも。
 立ち上がり、そこまで数歩。手に取った本は、ナーサリーライムの解読書。
 詩か。…確かに、ここ一連の事件は「詩篇事件」と呼ばれている。だがこの中にその答があるだろうか。
 奴なりに今起きている事柄を理解しようとしているのか。それとも他に思うところがあるのだろうか。
 例えば……「詩」を聞いた、というような。
 もし「詩」を聞いているのならば、何かの手掛かりになるかもしれない。速水自身がジンをその渦中に連れ込んでくれるかもしれない。
 そうなれば…。
 いや、これは単なる可能性の一つに過ぎない。詩篇事件そのものが、「奴」に関係しているのは分かっている。確固たる証拠はないが、確信に近い予感がするのだ。目的も何も分からないが。
 手に取った本をパラパラとめくる。何気なく手を止めたそのページに書いてある詩に目が行った。

What did I dream?
I do not know;
The fragments fly like chaff.
Yet strange my mind
Was tickled so,
I cannot help but laugh.
 
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