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3キャリア対応ゲームアプリシリーズ、「夢魔の天蓋」「夢幻狂詩ネクロノミコン」「夢幻舞葬モンストラバルツ」について考察やら妄想やら色々。
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 知りたいとは思う。だが同時に、知ってはいけないとも思う。それはきっと、ジンの胸の中に仕舞っておかねばならない事で、むやみに覗いてはいけない、闇のようなものなのだろう。
 好奇心で覗けば、なにもかもが終わってしまう。そんな…闇。
 そして、恐らくは、隆介も宝鍵も、会得した魔術そのものも、その闇の中に潜む何かを払う為の道具でしかない。だからこそ、あそこまで冷徹に判断を下し、帰依者を一掃する事が出来るのだろう。
 そうであるからこそ……、彼は、ジンは魔術師であるのだと思う。誰とも違う、孤高の魔術師。

「Mr.レイカーは、凄い方ですよ」
 パットは、しばし考え事に耽っている隆介の邪魔にならないような静かな声で、言った。
「実際に間近で拝見して、そう思いました」
「まぁ、俺も……、そう思ってるよ」
 隆介の返答に、パットは、少しだけ、微笑んだようにも見えた。彼女の表情は実際には固まってしまっていて大きな変化はない。だが、そう見えた。

 気のせいだったかもしれないのだが。


end
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訳も分からず巻き込まれた隆介を人間として繋ぎ留め、容赦無い言葉と態度で利用しようとしている、ジン・レイカーという男は、何故魔術師なのだろうか。
 異様な造形の左腕とその能力が彼を魔術師たらしめているのだろうが、だが、そう。ジンは多分、他のどの魔術師とも違う。それだけは確かだ。媚びず、装わず、知識に狂喜する事も呑まれる事も無く、ただ淡々と事を行う。そこには純粋な判断しか存在しないし、他人の助けや感情なんかは必要としない。……俺を道具としたみたいに。
 彼をつき動かして居るのは一体何なのか。はっきりとは見えないが、他の魔術師の、誰とも違う雰囲気を纏っているのは確かだ。
 静かで激しく、妥協を許さない何か。

 何かは分からない。
 ただ、とてつもなく大きくて重い「何か」である事だけは感じる。
「レイモンド様には、感謝して居るのです」
 パットは口を開いた。自らの人生を捩じ曲げてしまった男に、それでも感謝している。その感情は隆介には理解が出来なかった。が、目の前の少女はそう言うのだ。当たり前の様に。
「わたくしはレイモンド様を尊敬しております。そして、レイモンド様はわたくしを大事にして下さります。それだけで…」
「十分…なんだね」
「はい」
 頷いて、少女はまた手元の作業に意識を傾ける。
 尊敬されるというのはバウムには似合わない。隆介はそう思った。彼は知識や実力はともかく、他人に尊敬されるような人格の持ち主でない事は、実際に逢ってみてひしひしと感じた。同時に、本来魔術師になるのはこういう人種なのだろうとも。実に魔術師らしい魔術師。知的欲求と歪んだ願いを叶える為に魔術の道を歩む者。
 まるでメフィストフィレスと契約したファウストのような。
 それが本来の形と言うのなら。
 なら「彼」は。
 「彼」は何故に魔術師なのだろうか。
「パットの言葉遣いは…いつも丁寧だ」
「有り難う御座います。レイモンド様が、丁寧な言葉遣いをと指導して下さったのです」
「…そっか」
 少女は「レイモンド様」と言う時、丁寧な口調が殊更丁寧になる。
 パットの素姓は明らかでは無いが、彼女の主人であるレイモンド・F・バウムの好みに…と言うより、バウムの中のドロシー像に重なる様に、教育を受けて来たのだろうと思う。パットとなる前の姿、癖や嗜好、歴史さえ封印して、ただただ、バウムの望む、理想とする姿に…。
 一つだけ言えるのは、この関係が互いの合意の上で成り立っているという事だ。そうでも無ければ、あんなに丁寧に「レイモンド様」と呼んだりはしないだろう。
「リュウスケ様は、Mr.レイカーの事は…」
「別に…何とも」
 パットの言葉を遮って隆介は言い放った。何しろ自分はジンにとって「魔器」、道具扱いなのだ。あれから少しは昇級していると思いたいが。
「……そう、なのですか?」
「そうさ。ま、文句なら一杯あるけどな」
 だが、今は言い争っても恨んでも仕方が無い。ジンに協力せねばこの身体を元に戻せる可能性はゼロに等しくなってしまうのだから。ジンの元に居た処でそのパーセンテージは決して高くは無いのだが。
 パットはしばし押し黙ったままでいた。彼女から表情を読み取るのは難しいが、考えているのだろうと隆介は思う。魔術師との関係が、お互いに違い過ぎるのが不思議なのだろうか。
「リュウスケ様は」
 ふと、思い出したかのようにパットが言った。
「流暢な英語を話されるのですね」
 言われて、隆介は少女の顔を覗き込むように見た。彼女には相変わらず表情は無く、話しながらも淡々と作業を進めて居る様は機械的だった。
 隆介とパットは正直暇を持て余して居た。現在、パットの隣にはいつも彼女が付き添って居る主人の姿は無く、隆介を高慢な態度でこき使う魔術師も地下に籠ったままだった。だからといって自由が与えられて居る訳でも無く、結局、パットが図書館の掃除を始めたのに習って、隆介も掃除を手伝う位しかする事が無かったのだ。
「…基礎は日本で勉強したものだけどね」
 ネイティブな言い回しや細かいイントネーション等は、こちらに渡って来てから覚えた。生活する上で必然的に覚えねばならなかったし、気負いも有ったと思う。留学したからにはそれを活かせるようになりたい。それなりの費用が掛かって居るのだから、それに見合う実績を。経験を活かせる就職を。そして、一人残された母親を早く安心させたい。
 どれも、今となっては叶わないものなのだが。
「レイモンド様より、日本の方だとお聞きしていたので、話が上手く通じるかと不安でした」
「そっか」
 確かにそう思う。それが普通だ。隆介は常日頃から実践的な英語を習得する為に、進んで街に出向き、大学の友人と積極的に話し、気になる事は些細な事でも訊く様にして居た。
 …そういえば、大学の友人達はどうして居るだろうか。突然の休学に心配くらいはしてくれて居るのだろうか。連絡を取ろうにも外部との連絡すら許されて居ない。
 ……自分の事も、いずれは、過去の事として忘れ去られて行くのだろうが。
 
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